
この記事は、ホープン(旧社名:プリントボーイ)が創業より続けているアナログコミュニケーション、“お元気ですかはがき”のテーマと連動した内容となっております。
前回から「お元気ですか」は新シリーズが始まりまして、「言葉で紡ぐ」をテーマに、様々な視点から“言葉”が持つ力や、メッセージを紡いでいきます。
今回は「星の宿り」をテーマに「言葉」についてご紹介いたします。
記事で紹介しました今回のテーマについては、 “お元気ですかはがき”として、ご希望のお客様のお手元にお届けいたします。紙にもこだわっておりますので、記事とあわせてぜひご覧ください。
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- 日本語の美しい表現や言葉の成り立ちに関心がある方
- 和歌や古典文学、星にまつわる情緒ある世界観が好きな方
- デザインや印刷物で、テーマ性や用紙・フォントにこだわりたい方
- 「星の宿り」という日本独自の美しい表現があり、星を象徴的・感情的に捉えてきた文化があること
- デザインや印刷において、言葉の世界観をどう紙・色・フォントで表現するかの具体的な工夫
▼【言葉で紡ぐシリーズ】その他の記事は以下よりご覧ください!
※お元気ですかの前回のシリーズの記事はこちら↓
▼【日本の心を感じる文様シリーズ】その他の記事は以下よりご覧ください!
◆目次
1.星座=「星の宿り」と表現ができる

「星座」という言葉は、現代では夜空に浮かぶ星の位置を表す、わかりやすい記号として扱われてきましたが、日本には、古くから星座を表す別の言葉に「星の宿り(やどり)」があることをご存知でしょうか。
「星の宿り」という言葉の意味
「宿り」という言葉には、“仮の住まい” や “身を置く場所”、あるいは “神や精霊が降りる場所” といった、儚くも神聖な意味が込められています。『星の宿り』という表現は、星がただそこにあるのではなく、意味を帯びて静かに佇むような、特別な存在感を想起させてくれます。
もともとこの言葉は、身分制度や占星術など、社会文化的な文脈とも結びついていました。
たとえば、「星の位(くらい)」や「星回り」といった言葉です。
星の位(くらい)
星は高貴さや地位の象徴とされ、「公卿」や「大臣」など高位の人物の比喩として用いられました。
星回り
個人の運命や運勢と連動し、「人生の流れ」にまで影響するものとして言語化されてきました。
ここでは「星」という自然現象が、「星の宿り」という言葉によって、単なる天体として存在するだけでなく、象徴や意味、感情といった、心に響く要素を伝えられる存在になっています。
2.夏の夜空で見られる「夏の大三角」と物語
たとえば、7月上旬から夏の夜に見ることができる、ベガ・アルタイル・デネブで構成される「夏の大三角」は、西洋では幾何学的な「形」として捉えられていましたが、日本では、物語や情緒が“宿る”空間として認識されてきました。
7月7日の七夕伝説で知られる織姫と彦星、そしてその間を渡す橋(天の川)は、ベガ・アルタイル・デネブを単なる天文学的な座標ではなく、物語の登場人物として代々語り継がれてきました。
このような、星座にまつわる物語に触れると、「星の宿り」という言葉に込められた日本独自の感性や情緒が、より深く心に響いてきます。夜空と星として考えるのではなく、星々を宿す“物語の舞台”として夜空を見上げると、言葉は空間に「形」を与えるだけでなく、物語を通して「感情」へと自然に移っていくことができます。こうした移り変わりの中に、日本語の持つ豊かな魅力や感性がにじんでいるように感じられるのではないでしょうか。
3.古典和歌にも詠まれた「星の宿り」
平安時代末期から鎌倉時代にかけて、多くの歌人たちは星空に心を重ね、そのきらめきに情感を託して和歌を詠みました。中でも、南北朝時代に成立した勅撰和歌集『新千載和歌集』は、古今の名歌を集めた中で「星」を詠んだ作品も多く収録しており、和歌における星の表現の豊かさを伝えています。和歌の中で星は、恋や別れ、再会、そして人生の無常までも語る“情緒の宿り木”として、多彩な表情を見せてきましたが、今回は、その中から「星の宿り」を題材にした和歌をご紹介いたします。
●「星の宿り」を表現している和歌
天の原 ふりさけみれば 七夕の
星の宿りに 霧たち渡る
(出典:『新千載和歌集 巻四:秋上』00332/経信 作)
この歌は、夜空を見上げたときに、七夕の星たち(織姫と彦星)が出会う天の川のあたりに、静かに霧がたなびいているという、幻想的な情景を描いています。
「天の原(あまのはら)」という言葉には、ただの空ではなく、広くて果てしない宇宙のような広がりや、どこか神秘的な印象が込められています。そこに「ふりさけみれば(見上げてみると)」という言葉が続くことで、夜空に目を向けること自体が、自然に対する敬意や物思いを誘っているように感じられるのではないでしょうか。
「七夕の星の宿り」という表現は、年に一度だけ出会える星たちが、一時的に身を寄せる“仮の住まい”のようなものを意味しています。そこに霧が立ち込めている様子は、まるでその年に一度の特別な出会いを、優しく包み込む白いカーテンのように表現され、恋の儚さや、時の流れの移ろいを感じさせてくれます。
形のない霧が星の情景と重なり合うことで、この歌全体には、淡く揺らめくような静けさと奥ゆかしさが生まれ、読む人の心に余韻を広げています。まさに、「星の宿り」に感情が重ねられた、味わい深い一首といえるのではないでしょうか。経信の繊細な感性が光る、心に残る名歌です。ぜひ夜空を見上げた際にこの和歌も思い出していただけたらと思います。
4.今回のデザインポイント
今回、「お元気ですかはがき」に落とし込む上でのポイントを、デザインを担当したデザイナーにインタビューしました。
デザインへのこだわり
その他、デザインのポイントとして、タイトルの「星の宿り」の「星」の部分に流れ星が流れているようにしております。視線を優しく引き寄せつつ、星そのものの光が象徴できるように工夫いたしました。
色彩へのこだわり
夜空の深みを引き出すために、ネイビーブルーからパープルへのグラデーションをベースとし、リアルな星の輝きが際立つよう調整いたしました。
星の光には、微かなゴールドやシルバーのニュアンスも重ね、自然な星の光に見えるよう演出しています。
ぜひ紙でも、色合いをお楽しみいただきたく、「お元気ですかはがき」でご確認いただけましたら幸いです。
フォントへのこだわり
今回はがきの表のデザインの添え文には、皆さまがより読みやすいよう「ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)※」を使用しました。
また、今回はUDフォントの中でも余白と品格のある明朝体「A-OTF UD黎ミン Pro」を採用しました。
角の立ちすぎない和文フォントを選ぶことで、過度に主張しない柔らかな存在感に仕上げることで、夜空の静けさと詩情を表現しています。
※UDフォントとは、誰にでも読みやすく使いやすいように設計されたフォントのことです。目の不自由な方や高齢の方、外国の方など、多様な人々が使いやすいように、文字の形状や間隔が工夫されています。特に、視認性や可読性に優れ、公共施設や教育機関、企業の資料など、幅広い用途で使用されています。
「UDフォント」についてご興味がある方は、以下の記事をご確認ください。
▼ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)についての記事はこちら
今、ユニバーサルデザインフォント(UDフォント)が求められている理由とは?誰もが見やすい文字について解説
印刷紙へのこだわり
はがきの用紙には、「ミランダ-FS(スノーホワイト 210kg)」を採用しました。この紙以外にも様々な紙を検討しましたが、「ミランダ」は発色性の高さと、しっとりとした上品な質感を兼ね備えていたため、今回デザインした夜空の繊細なグラデーションや星の煌めきが表現できた紙でした。
また、「ミランダ」の紙表面に施された、微細な凹凸(パール調の光沢)は、「星」のきらめきを表現するのにピッタリだったのも採用したポイントでした。手に取った瞬間の柔らかなマット感があるため、見た目の美しさだけではなく、触れたときの心地よさも感じていただけたらと思います。
視覚的にも質感的にも「星空」を感じていただけるように紙もこだわりました。
その他この紙は、このような用途にもおすすめです。

上品で落ち着いた白さと、手に取ったときのしっかりとした厚みが特別感を演出します。式典・展示会・展覧会など、フォーマルな場面でのご案内も、受け取る側の印象に残りおすすめです。
・高級パッケージの中敷きやラベルに
化粧品やジュエリーなど、高価格帯商品のパッケージ用紙としてもご活用いただくことで、存在感もありつつ映える印象を演出できます。滑らかな手触りと上質な白が製品の価値を高め、ブランドイメージの格上げにも貢献します。
・アート作品を組み合わせた限定アイテムに
プリントの発色がよく、細部まで美しく仕上がるため、イラスト・写真・版画などのアート作品と組み合わせた限定アイテムの紙で採用するのもおすすめです。
印刷紙の質感などは、写真ではなかなか伝わりにくいため、ぜひお手元で紙の品質をご確認いただけたらと思います!
以下のフォームから「お元気ですかはがきのサンプル」をお申込みいただけましたら幸いです。

5. まとめ
今回は、「言葉で紡ぐ」シリーズの其の二として「星の宿り」をご紹介しましたがいかがでしたでしょうか。日本では古くから、星空を「見る」のではなく、「読む」「感じる」ものとして捉え、そこに人々の心を映してきました。現代では「星座」という表現が一般的となり、「星の宿り」という呼び方は使われなくなりましたが、言葉ひとつで美しさや情緒を伝えられる、そんな日本語の言葉の魅力を感じていただけましたら幸いです。
ホープン(旧社名:プリントボーイ)は、今回ご紹介しました特別なお手紙・DMの制作など、コミュニケーションに関する制作物も行っておりますのでお気軽にご相談ください。
※こちらもあわせてお読みください。
▼「言葉で紡ぐ」シリーズの前回までの記事はこちら
▼前回のお元気ですかのシリーズ「伝統文様」についての記事はこちら